んがお工房の桜めぐり


2020年桜追い@
戸津部の桜、外大野のしだれ桜、小生瀬地蔵桜

2019年、つまり昨年はいつにない暖冬であった。昨年の状況でびっくりしていたのに、2020年はそれを上回る暖冬だった。ついに我々の住むあたりは一回も除雪車が出ず、積雪らしい積雪はしなかった。
積雪どころか、気温も、新潟の冬にはあるまじき温度が続き、2月の終盤には当たり前のように雪割草が咲き始めた。
2020年、新潟の平野部にはマトモな冬は来なかった。
これでは桜はいったいどうなるのだろう。
3月に入って、新型コロナウィルス騒ぎで世の中がざわついている頃、桜開花のサイトが準備もしていな状況で東京ではあっという間に桜が満開になってしまった。
外出自粛が要請され、桜の下での宴会はもってのほか、という、この季節には残酷なくらいの状況になった。
桜は毎年と同じく美しく咲いている。
しかし、それを愛でる人間に余裕のない事態が襲い掛かっていた。
さて、我々である。
実は我々の住む新潟県でも新型コロナウィルスに感染した人が何人も出ていた。しかし、首都圏や大都市のような感染ルートの特定できない人はいなくて、さすがに地方という、今一つ危機感のない状態ではあった。
桜、咲いているしね。
持病のある老母と接触することのある私は絶対に感染はできないのだが、あと何回見られるかわからない桜を1回も見逃したくないという気持ちもある。
たくさんの人の集まらない場所を選んで、予防に予防を重ねて桜を追うことにした。
そんなこんなで2020年の桜追いは、とんでもない覚悟を持って、3月から始まった。
後々振り返れば、軽率極まりないと大反省したこの年2回だけの桜追いの1回目である。
まず、かねてから見てみたいと思っていた、福島県で一番に咲くという戸津部の桜に行ってみることにした。




戸津部の桜
福島県指定天然記念物。
樹齢約600年の江戸彼岸桜。
戸津部は地域の名前である。
桜の所有者、土地の所有者の好意により
見学させていただいているので、
ゴミなどはちゃんと持ち帰ろうと
看板があった。
本当にありがたいので、
良識ある見学をしようね。



このうねる枝ぶりを見よ。
東北の地で長く生きている証だ。



祠のある正面から。
洞になった部分に
樹勢回復措置が取られているらしい。



桜の枝に隠されてしまったが、
ちゃんと戸津部の桜と石碑もある。



でも、私的には裏側から見た
最初に目に飛び込んでくる方向のほうが好き。



すごい枝ぶりがよくわかる。



一部は横に長くのびていて、
花が手にとれる高さだ。



花はこんな感じ。
満開で、毬のように丸く固まって咲いていた。


3月28日
戸津部の桜の存在は、実は桜の本などではなく、現地で知った。
というのも、戸津部の桜のある矢祭町は我が家から百選の滝である袋田の滝に向かう途中にある。もっと言えば、戸津部の桜の入り口に立っている看板の真ん前を通って袋田の滝に行っているのだ。
袋田の滝は氷瀑の季節に行くことが多いので、桜はもちろん咲いていない。いつか行きたい桜ではあったが、なかなか機会がなかった。
しかし、この超暖冬の今年は、雪割草の季節とも重ならず、うまい具合に行くことが可能になった。
距離的には遠いが、場所が明確にわかっているので気持ち的に楽だ。
平日に会社に行くくらいの時間に家を出発。
新潟は雨模様だったが、天気予報的には福島県の浜通りは雨の確率は低い。青空こそ桜にはいいのだが、雨が降っていないだけありがたいともいえる。
東北自動車道須賀川ICを下りて、国道118号で矢祭町を目指す。
新潟よりも桜の開花が早い福島県の浜通り、道の端々に色々な花が咲いているのが見受けられ、ドライブが楽しい。
国道118号を南下して、矢祭町に入るとほぼすぐに左手の高台になにやら大きなピンクの塊が見えた。
むむ、すごい桜だぞ。満開っぽいぞ。
あれが戸津部の桜か。そうでないとしても、絶対に自動車を降りて見に行かなくちゃならない桜だぞ。
と、思っていたら、水郡線の線路をくぐってすぐ左に戸津部の桜の看板が現れた。
見てほしい桜は人を呼ぶ。
これは、毎年実感することである。
今回も戸津部の桜は呼んでくれた。迷いもせず、見落としもせずに到着することができた。
外出自粛が要請されているせいか、国道を外れて桜の駐車場に向かう細い道に入っても、ほとんど自動車はなかった。
すんなりと一番近くの駐車場に誘導される。
自動車から降りて、さて、桜はどこ?
駐車場からはあんなに大きな桜の木が見えなかった。とりあえず人の歩いていくほうに歩いたら、遠いほうの駐車場に戻る人で、慌てて反対側に。よくよく見たらちゃんと案内の看板があった。
民家の間を少し歩いて、桜のもとに行く。
例年ならどれくらいの人が満開のこの桜を見に来るのだろうか。今日はチラホラと公園に遊びに来る人くらいの人数の人が歩いている程度だ。
道の向こうに桜が見えた。

  
  駐車場から道を渡って左手がわに案内看板がある。

  
  細い道の奥に桜が見えてくる。

ちょっと広い広場になっていてほぼ中央に戸津部の桜は立っていた。
ああ、満開だ。
見事にふっくらと桜色の塊になっている。
近づいてみると、どうやら駐車場から向かっている方向は桜としては裏側のようだ。
木の周りには木道がつけられていて、根を守るようにしている。その木道を歩いて来た方向と反対側に出たら小さな祠が根元に建てられていた。

  
  木道がぐるりと取り付けられている。

  
  足元の祠は、国道側を向いている。

花がみっしりと咲いている枝が下まで下がっていて、それに隠されてよく見えなかったが、祠がわにちゃんと戸津部の桜と書かれた石碑も立っている。
これは、方向的には国道側を向いているということになる。

  
  一つ下がった農道にはちゃんと説明看板がある。

桜の正面がわはまたちょっと広い広場になっていて、子供たちが元気に遊んでいた。
のどかだなぁ。
ウィルス騒ぎがなかったら、戸津部の桜の満開時はどれほどの混雑になるのか。駐車場に警備員などがいたから、きっともっとたくさんの人が見に来ていたに違いない。もしかしたら、出店なども出ていたのかな。
それはそれで賑やかだったかもしれないが、静かな広場で子供の遊ぶのを見下ろす桜の巨木が佇んでいる空間も、言いようのない幸福感がある。
来てよかったな、としみじみと思った。






外大野のしだれ桜
茨城県指定天然記念物。
樹齢約300年の枝垂桜。
外大野地区の下大蔵にあるので、
地元では下大蔵の桜と呼ばれている。
徳川光圀がお手植えされ、
他所に移されても根付くな、と言った桜だとか。



すごくいい図でしょ。
昔話の世界です。
民家の屋根が藁ぶきだったらね〜。



木の前には祠じゃなくて、
賽銭箱っぽかったなぁ。



幹は枝張りのわりに細い。



裏側の高い場所から撮影。
周りになんにもないんだもの。
本当に昔話の世界。



登って行くと花のそばまで行ける。
八部咲きまで行ってないかも。



花は小ぶり。
可憐です。


さて、実は、福島の桜は戸津部の桜だけである。
さすがに東北、3月のうちに咲く桜は福島では戸津部の桜くらいだ。
しかし、毎度この国道118号を通って袋田の滝に行っている我々は矢祭町から茨城県に入るのはごくごく簡単なことだと知っていた。
ということで、茨城県北部の桜を探してみた。
途中、矢祭町で滝を一つ拾ったので、いくつかあった候補のうち代表的な2つくらいしか見て回ることができなかったが、大子町にはたくさんの桜がある。(大子町桜マップ)
そうか、茨城北部も桜スポットであったか。
まず向かったのは外大野の枝垂れ桜。
ざっくりとした住所しか分からないが、行けば桜は読んでくれる。今までその方式で大抵の桜に出会えることができたので、今回もそれにならって、住所だけをナビに入れて走り出す。
大子町の桜マップによるとこの地区には外大野の枝垂れ桜と沓掛峠の山桜群というのがある。が、山桜は開花がまだだろうので、パス。
外大野地区に入るとちゃんと枝垂れ桜も山桜も案内が出ていた。
ただ、向かう方向によっては逆向きに案内があるので、ちょっと注意が必要である。小さい看板だったし。

  
  階段の横にあるのがちっさい案内。これは帰りに撮影したので、まだわかりやすいが、向こう側から来たので見落とすところだった。


首尾よくそれを見落とさずに細い道に入ると、左側に広めの駐車スペースがあり、右側に斜め後ろに向かって坂道が伸びていた。
坂道のたもとにも案内があるのだが、これも小さくて見落としがちである。
さらに、坂道の上のほうに桜があるらしく、今まで来た道からは全く桜は見えない。つまり、案内がなかったり、見落としていたりしたら、桜には出会えなかったと思う。危ない、危ない。
看板には「新型コロナウィルスの拡大のため、予定していたお祭りやお茶のふるまいは中止したが、見学はできる」という旨の貼り紙がしてあった。
訪れる人も我々のほかは2組ほど。
雨もぽつぽつ降りだしてきてしまった。

  桜に行く道。向こう側が駐車スペースで出前がわが桜です。我々は左手から来ました。


  桜に向かう坂道。

坂道を登ると前方に桜が見えてきた。
おやおや、まあまあ、なんて素敵な桜なんだろう。
桜の前に広い広場があり、桜は高い斜面に咲いている。その手前に古民家があり、まるで昔話の絵本の1ページを見ているような感じだ。
坂を登り切ったところに桜についての説明看板があった。この木も樹勢回復の手当てをしているらしい。
その文字が地元の人が桜を愛しているのだろうと思わせられる文字でほほえましい。きっとお祭りもほっこりしたお祭りだったんだろうなぁ。

  説明看板。

  ここにもコロナウィルスのためにお祭り中止の貼り紙が。

桜はまるで民家の上を覆う傘のように見事に枝を左右に広げている背の高い桜である。
そのバランスが絶妙で、実物大の盆栽だな、とワケのわからない感想を持った。とにかく整っている。
桜は斜面に立っているのだが、その斜面を登って桜の周りを一周できるようになっている。なっていると言っても木道がつけられているわけでも階段が作られているわけでもなく、ちょっと踏み跡があるくらいのものなので、雨が降り出して滑る感じだった。
でも、上から見る風景もまたよし。
背の高い桜なので、上からみるとやっと花が近くなる。
満開にはちょっと早くて五分咲きくらいだったが、赤味が濃くてよかった。
我々と一緒に桜を見ていた家族連れも雨が降ってきたにもかかわらず、ずっと桜を見ていた。
晴れて気持ちのいい気候なら、桜前の広場でのんびりしたい空間だった。





小生瀬地蔵桜
大子町指定天然記念物。
樹齢500年の枝垂桜。
子安地蔵観音堂の前に立つので
地蔵桜というのだと思う。



これが地蔵観音堂。
雨宿りさせていただきました。



幹。太く、短い。
枝がうねっている。



地蔵桜と書かれた木は文字の判別もつかない。
立て看板には
「里の山桜の園となりにけり」とある。



こんもり咲いている。
でも、まだ五分咲きくらいだと思う。



説明看板。
QRコードのついた案内もあった。



これ、裏の遊歩道から見た図。
観音堂の向こうに桜のピンクが見える。
遠近法の関係なのだが、
それほど大きくない桜が
屋根を覆って見える。



こちらは下の駐車場から見た図。
空が青ければね〜。
高台にあるので、ピンクが映えると思う。




オマケ。
帰りの遊歩道で撮影。
若い木の桜林だったが、たくさんあったので、
きれいでしたよ。
いよいよ雨が強くなってきた。
桜は草花と違って雨でも咲いてくれるのだが、写真に撮るのが大変になる。
あまり欲張らずにあとは樹齢500年という古木だけ見て帰路につくことにした。
ところが、こっちの木のほうが実は探しづらい木なのだ。
小生瀬という地名はわかっている。
しかし、それしかわかっていない。
珍しく前もって場所を調べておいたのだが、そのメモに「弘陽電機生瀬工場の裏あたり」なんて書いてある。ナビに入れても出てこないのよ、その工場。
外大野から南下して、国道461号に出た交差点から右に行けばいいのか、左に行けばいいのかさえ分からない。
とりあえず山勘で左にというか、道なりに直進。
あれれ、なんか、さびれた感じの道になっていくぞ。違うんじゃないか。
慌てて路肩の広くなった場所に停車して、今度はスマホのナビで調べようということになった。
止まって、とりあえずぐるりと見まわす。
見える方向は山側だけ。
おや。
やや、高台になんか、こんもりとしたピンクが見える。
かなりデカい。
あれだろう。あれ以外に桜の大木はない。あれじゃなくても、あれが私を呼んでいる。
じゃ、あれに向かって走ることにするか。
山勘に次ぐ山勘で自動車を走らせた。
相手は高台にあるので、方向はわかるのだが、道がどうつながっているのかちょっとわからない。
国道を離れて、住宅街に入って行く。
とにかく坂を登りゃあいいんだ、坂を。
細い道をあてずっぽうで登って行くと、あ、看板。
桜ではないが、桜を示す看板が出ていた。らっきーだーーー。
手書きの地蔵桜Pの文字。自動車が10台以上止められそうな広めの空き地が地蔵桜の駐車場になっているらしかった。
駐車場の傍らには案内看板も設置されている。
なになに、遊歩道を歩いて行けば地蔵桜の咲く子安観音に行けるのか。
駐車場には1台も自動車がいない。
あ、管理しているらしい軽トラが来た。
看板を見ている我々を咎めもしないので、了承を得たことにしよう。
支度をして歩きだした。

  案内看板。ざっくりです。

  これ、駐車スペースの入り口。

雨は小降りである。
遊歩道は山に向かって伸びている。砂利道で、作業をする軽トラも入って来るんだろうな、という道だ。
右手に植えてから少しかたっていないだろうな、といった感じの桜の林があり、やや登りの道でも楽しい。
やがて左に曲がって杉の林に入り、雨がしのげるようになった。

  
  遊歩道にはちゃんと案内がある。右手に桜林。

  
  案内どころか、石灰で矢印まで書かれているので迷わない。

  
  はい、迷わず左折しますよ。

ちょっと歩くと、前方に子安観音の屋根とその向こうに桜のピンク色が見えてきた。子安観音がピンクの帽子をかぶっているみたいだ。これは遊歩道を歩いて来なくちゃ見られない図だなぁ。

  
  奥に子安観音堂の屋根。その向こうにピンクの桜。

当たり前の話だが、遊歩道は山側から観音堂に向かうので裏から観音堂に入ることになる。
杉が途切れて雨が激しくなってしまったので、とりあえず裏から観音堂に入って雨宿りした。
観音堂からは地蔵桜が見下ろせる。
この桜も形が見事な桜だ。横に広がった枝が、高い位置から見ると下の集落を覆うように見える。
説明看板によると、地域の人が大切にしている桜だそうで、主幹が衰えているものの、保護の労あって枝ぶりはしっかりして見えた。
木の周りを柵で囲い、木に近づけないようにしている。
桜にお決まりの祠が足元にないように見えたが、そりゃそうだろう、後ろに立派な子安観音堂が立っている。この観音堂のあった場所に竜骨を秘蔵していた寺屋敷があったのだそうだ。そのころから桜はこの地に立って眼下の町を見下ろしていたのだろう。
裏から来たので、とりあえず観音堂の正面にあたる図を見てみようと階段を下ってみた。
まだ満開ではないし、雨も降っていたので、きれいには見えなかったが、背後に杉林を従えた姿を見上げることができた。
しかし、写真に撮影していなかったのが残念なのだが、この桜、実は国道461号線の路肩から見つけた時の姿が一番きれいだったんじゃないかなぁ。
遠望が似合う桜もあるのである。


それにつけても、雨がひどくなってしまった。
このあと袋田の滝に行くという案もあったのだが、そっちには正月に行っているし。今日はこれで新潟に戻ることにしよう。距離が長いしね。
だが、茨城にもよい桜がたくさんあるのだと知ることができた。桜追いはこれだからやめられない。これからも楽しみだ。



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