んがお工房の桜めぐり


2016年福島桜追い@
北福島の桜たち

2016年は、んがお工房的に「福島イヤー」と決めた。
というのも、2011年の東日本大震災から今年で5年。福島はまだまだ復興の途中で、隣県に住むんがお工房としては、せめてせっせと福島を訪れて、福島の自然を発信して、微力ながら復興のお手伝いをできないか、と思ったのだ。
と書くとなにやらカッコいい話だが、実のところ、私事で多忙になり、遠くに足を延ばせなくなったのが大きな理由だったりする。
ともあれ、今年は福島イヤーだ。つまり、桜も福島の桜を追うぞ。
福島の桜、というと、三春の滝桜様が筆頭にあげられるのだが、滝桜さまは我々が行かなくても、たくさんの人たちが訪れてくれる。それほどメジャーではないが、しかし見栄えのする桜はないか。
あるのだ。福島は桜だらけなのだ。選ぼうとすると、迷ってしまうほどたくさんの桜の名木が福島にはある。
だとすると、我々の行くことのできる週末に一番よい状態の桜を目指そうではないか。
そんなこんなで、4月9日、我々は川俣町の駒桜をメインに目指すことにした。



万燈桜
樹齢約270年のエドヒガンサクラ。
この土地は昔観音堂があった場所と推定され、
そこに安置されていた旭十一面観音を
崇拝していた万灯長者にあやかって、
平成8年に命名された、と説明文があった。



これは、上り線の道の駅から見た姿。
実はこっちからだと桜の後ろに雪を被った
山々が見えるのだが、
イマイチ、写真の腕が〜。



下り線の道の駅に行けば、
桜のすぐ足元まで行くことができる。
見上げるほどに豊かで美しい桜だ。


4月9日
福島は東北である。
東北といえば、4月9日は桜の開花日としてはとても速いほうだ。
そう、今年は雪が少なく、暖冬だった。
桜も全国的に1週間から10日、開花が早まっていた。
桜の開花情報をネットで調べると、4月9日に見頃の桜はたくさんあった。
本日のメインにすえた川俣町の駒桜に行くには、東北自動車道の二本松インターで降りるのが一番いい。開花情報では二本松市の桜もいい具合に咲いているという。
そんなわけで、まず道の駅安達を目指した。
つまり、2009年に桜めぐりをした時とほぼ同じルートを取ろうというのである。
ただ、そんなに早起きしなかったので、市内の茶園の桜はパスすることに。まず、この日最初の桜は道の駅安達から見ることができる万燈桜に決めていた。
珍しく青空に山頂までくっきりと見せてくれた磐梯山を通り越し、東北道に乗る。とりたてて渋滞もなく、順調に二本松インターを降りた。

  
  磐梯山サービスエリアで撮影した会津磐梯山。

そこで道の駅安達をナビに入れて、たしか2009年の時、上り線上にある道の駅に出るのにナビがぐるぐる遠回りをしたのを思い出して、ちょっと手前で国道4号をそれて、道の駅へ。
ちょうどタイヤメーカーがキャンペーンで空気圧を見てくれたり、ティッシュやマスクをくれたりしていた。
さて、万燈桜は、道の向うだ。
道の向こうの桜、桜・・・。
おお、きれいに咲いているじゃないか。
あれれれれ、道の向こうは。2009年の時は道の向こうは荒野みたいに何もなかったのに、今はなにやら施設があるぞ。あれも道の駅じゃないのぉ〜?つまり、下り線にもちゃんと道の駅があるのぉ〜?
し、知らなかった。
手前で道をそれなければ、ナビ、ちゃんと下り線の道の駅を案内しただろうに。
下り線の道の駅なら、万燈桜の足元まで行けるのに。
ともあれ、前もここで昼食にしたから、今回もここで若い桜の木の下で昼食にしよう。
おなかも満たされたところで、さて、道の向こうの道の駅に行きましょうか。見えてはいるが、なかなか国道4号線をまたいで向こう側に行くルートは難しい。ここ、通れるのか、というような道を進んで、なんとかたどり着く。
下り線の道の駅は、なんだか新しい雰囲気で、産直品の販売やパン屋とかレストランとかがあって、万燈桜まで広々とした芝生の広場もある。
あんなに立派にすっくと立っている1本桜なのに、桜を見に芝生を歩いて近寄る人はちらほらとしかいなかった。
シート広げてお花見してもいいくらいの場所なのになぁ。
あまりに見事に咲き誇っているので、今日の桜はこれ1本で十分と思うくらいだった。
が、一応メインは決めているし。
さて、ナビに川俣町を入れて、出発しようか。

  


   

さて、こう書くとかなり計画的に福島入りしたように思える今回の桜めぐりだが、実はほとんど何も決めていなかった。
前日までにどこの桜がよさそうだとかネットでさんざん調べて、北福島の桜をいくつかピックアップしてあったのだが、その資料を見事に全部家に忘れてしまったのも痛い。
仕方がないので、道の駅でパンフレットを入手。これがまあ、桜については自慢していい県なだけあって、詳しい資料がいくつもあった。とはいえ、代表的なものばかりなのだが。
自分で調べた資料を忘れたのだから、文句は言えない。
とにかく、パンフレットを握りしめ、川俣町に向かった。
その途中で道端になにやら立て看板。

  

西の内稲荷神社の桜、と書かれていて、その後ろに小さな桜の木があった。
が、稲荷神社自体がそこにないし、看板に書かれている説明書きでは、幹回り4.6メートル、下川崎地区で最も古い名木と書かれていたので、この後ろにある桜のことではないと思われる。どこにあるんだ、西の内稲荷神社〜。
ちなみに、あった場所は県道安達・飯野線下川崎地区です。



秋山の駒桜
川俣町指定天然記念物。
樹齢約400年。
エドヒガンともアズマヒガンとも
言われている、と立て看板に
書いてあった。


ほぼ満開。
花が重たいんじゃないかと思うくらい
たくさんぽんぽんと咲いている。



斜面の下側から見上げると
また表情が違う。
が、こちらがわに石碑などが
並べられているので、
もしかしたらこちら側が正面かも。

川俣町にたどり着くまでに、○○町仮設住宅、などと書かれた道路案内をいくつか見て、まだまだ復興半ばであることを実感した。
ナビの案内するままに秋山の駒桜のもとへ。
あれ、以前来たときには、狭い道路に何台も自動車が止められていて、駐車するのも大変だった記憶があるのだが、今日は自動車の姿がない。
仮設の橋がつけられた駐車スペースにも自動車はちらほらとしかなかった。
ちょっと曇りぎみで、まだ午前中であることを考慮しても、見物客が少ない。まさか、咲いていないとか、それとも鳥害で無残だとか。
いや、桜の手前にある休憩施設のそばに来て、その理由にハッとなった。
線量計が設置されている。

  駐車スペースから仮設の橋を渡る。

  と、線量計が設置されていた。

その線量計の数値がどれほど安全なのか危険なのか、のほほんと事態の外側にいる我々にはまったく分からない。
だが、震災から5年ということでテレビなどでは福島の原子力発電所の事故についての検証などが放送されていた。
原発の近くの住民たちは、放射能から逃れるために、国道114号線を福島市方面へと自動車を走らせた。しかし、実際にはその方向に向かって放射物質が流れて行き、渋滞中の自動車に降り注いだ。
そんな内容のものだったと思う。
川俣町はまさにその避難先なのだ。
皮肉にも5年の節目の報道が秋山の駒桜に来る人の足を鈍らせたのだろうか。
もし、この推測が当たっているのだとしたら、福島の復興は本当に亀の歩みだ。
のほほんと事態の外側にいる人間がたった1日桜を愛でにそこに行ったとして、肉体になにか変化があるだろうか。
変わらずに咲いている桜を見ることができて、天災と人災をダブルで喰らった福島を微力でも応援できるなら、私にはダブルでプラスだ。
複雑な思いにかられながら休憩所の向こうへと視線を移すと、秋山の駒桜は凛と咲いていた。
ああ、これは見事だ。
今日まさに満開になったばかりの風情で、周囲の緑のなか、ピンクの色彩を放っている。
いつまでもじっと見ていられる、本当にきれいな1本桜だ。
人が少ないものだから、ぐるぐると周囲を回って、いくらでも桜を堪能できる。が、以前来た時は、休憩所から遠いがわのカタクリがたくさん咲いている場所にも入って行けたのに、今回はそこにはロープが張られていて入れなくなっていた。カタクリを踏み荒らすからかしらん。カタクリなめの桜もきれいなのになぁ。


  
  カタクリと桜の競演も秋山の駒桜の魅力だ

  

 本日のメインにしていた桜を見終えて、我々はどうしたもんかと困った。手元にはパンフレットはある。
実は秋山の駒桜から少し北に行くと姫駒桜という桜があるのだと知っていたのだが、手元のパンフレットにはその桜の名前はなかった。あまりにもざっくりとしか場所を覚えていなかったので、深追いはできなかった。ならばパンフレットにある桜に行こうじゃないの。
ということで、来た道を戻る感じで二本松市内に向かった。



本久寺のしだれ桜
二本松市指定天然記念物。
樹齢350年以上。



木の下にもぐりこむと、
空がすべて桜の花になる。




鏡石寺のシダレ桜
二本松市指定天然記念物。
推定樹齢約400年。



竹林を背負った
おばあちゃんみたいな老木だ。




法蓮寺のシダレ桜
二本松市指定天然記念物。
推定樹齢300年以上のエドヒガンシダレザクラ。


ずっと変わらず市内を見下ろしている。

ほぼ来た道を逆戻りして二本松市内に。
一番の有名どころと言えば、本久寺のしだれ桜だ。
ここも思ったよりも自動車が少なく、あれれ、といった感じだった。前に来た時は、お祭りみたいな催しがあった時で混雑していた。
その時よりもむしろ花はきれいに開いていたのだが、見に来る人の数はまばらだ。
市の天然記念物の桜も見事にふんわりと咲いていたのだが、ほかの桜たちも咲きそろっていて、墓場ではあるのだが、なんとも華やいだ感じになっている。

  
  桜の花だらけになる斜面。花の下は墓地である。

本久寺は少し高台にあって、駐車した場所から市内が見てとれるのだが、遠くにあれがきっと霞ケ城公園だな、とわかるピンクの塊があったり、あちこちに桜の木々が花開いていて、どこに行っても桜だらけの市なのだと一目でわかった。
続いて、鏡石寺へ。
ちょうど駐車スペースに桜めぐりの巡回バスが来ていて、我々と行き違いで出発していった。調べてみたら、けっこうたくさんの桜めぐりのバスが二本松駅から出ているようだ。桜を探して迷うよりも、もしかしたらバス利用というのも一つの手かもしれない。
さて鏡石寺のしだれ桜だが、お寺の裏側にある古木は前よりも一層歳をとったように見えた。
少し葉っぱが目立っていたせいかもしれないのだが、老木がますます老木に見える。

  
  表から見ると、けっこう元気そうに見えるおばあちゃん桜。

この桜は背後に竹林があって、風情があるのだが、ちょうど我々が行った時に風が強くなって、竹がゆれてカラカラいうし、桜の花は散って花吹雪になるし。きれいなのか、切ないのか、よくわからない気持ちになった。
桜は散る時もなにかしらドラマを告げているように思える。
ここにきて、二本松市内の桜は一度見たことがあるから、今回はいいんじゃないの、とダンナが言った。
いや、一度でも二度でも、毎回違うから見ておいたほうがいいと思うのだが、それに時間を割くよりは別の桜が見たいというのもわかる。
ならば、もう一つ、法蓮寺の桜だけ見て、市内の桜は終わりにしよう。
法蓮寺も桜を見に来ているひとはチラホラ。まあ、確かに二本松市内は桜だらけだ。いくら満開の日とはいえ、そうそうお寺の桜を見に来る人もいないのかも。
このお寺の桜もちょっと高い場所にあって、市内を見下ろしている。
鏡石寺の桜がおばあちゃんに見えるとしたら、こっちはおじいちゃんかしらん。
やはり、ちょっと葉っぱが出ていて、華やかには見えなかったが、いかにも墓守の桜といった感じだった。
法蓮寺といえば、この桜の寺を挟んで向かい側の斜面にも桜の木があったはずなのだが、今回見てみたら、その木はほとんど死にかけていて、花も咲かせてはいなかった。何かの病気か、それとも伐採する予定なのか。ちょっと残念だった。

それにしても、二本松市内の桜はやめるとして、これからどこに向かう?
手持ちのパンフレットで、比較的近い桜を探してみたら、「合戦場のしだれ桜」。
うわ〜、そいつはあまりにも有名すぎる。きっとこんな時間では混雑しているだろう。
合戦場の枝垂れ桜の次に近いのは「祭田の桜」。
のなんか、見た覚えがあるようなないような。いや、そのそばにある「中島の地蔵桜」は最近見られるように整備したそうだから多分見たことがない。では、その地蔵桜を見るということで、だいたいの位置をナビに入れる。
あーあ、福島の地理に詳しい方なら、すぐに気がつくだろうが、実はこれ、再び川俣町方面に向かって戻ることになるのだ。
最初からちゃんとルートを決めていれば、無駄なく回れたというのに。
ま、それもこれも計画性のない我々のすることである。
仕方がないとあきらめて自動車を走らせた。




小田八龍桜
樹齢不詳の品種不詳。
でも、写真映えする名木だと思う。
私的には、今回の一番の拾い物。



県道から足元まで徒歩で登れる。
こんな感じのちょっと高い場所にある。。



反対から見てみるとこんな感じ。



祭田の桜
二本松市指定天然記念物。
推定樹齢800年以上のエドヒガンザクラ。
写真は駐車スペースがわの
菜の花から見上げたもの。
看板によれば、昭和40年ころに桜の木を
3メートルくらい埋めてしまった、というから、
これだけ咲いているのはすごいことだ。



ごらんのとおり、幹の大半は枯れて見える。
半分だけ咲いているのも
むしろ奇跡にさえ思える。



でも、花を見ると豊かだ。
鞠のような塊になって、やや白っぽい花が
ぽんぽんと咲いている。




中島の地蔵桜
樹齢約150年の紅枝垂桜。
紅しだれだけあって、ピンクが濃い。
しかも、整えたような姿が実に美しい。



がんばって田んぼの水面に映る姿を
撮影してみたけど、
うっすらとしか見えない。



若いだけあって、花もたくさんつけている。



長沢の桜
二本松市指定天然記念物。
教育委員会の立て看板によると、
推定樹齢は約400年。
往時熊野神社境内だった場所で、
農家の苗代づくりの目安の花で
「肥盛(ひもり)桜」と呼ばれていたそうだ。



整備はされていないが、桜の回りを
ぐるっと回ろうと思えば回れる。
でも、上の写真でわかるように
けっこうな斜面にある桜だ。



熊野神社はどんな具合に建っていたのか。
今となってはわからない。
無計画ゆえに二本松市と川俣町の間を行ったり来たりする我々。
しかし、幸いなことに、ナビが案内している道は同じ道ではなくて、ドライブとしてはけっこう楽しかった。
それに、思いつきで方向を変えたわりに、結果、いい拾い物をすることができた。
祭田の桜は有名桜で、実は道の駅安達から道案内がある。ナビもたぶんその案内どおりに自動車を進めたはずだ。
つまり、剣道62号を東に進む。
その途中、もう少しで祭田の桜だという場所で1本、見事な桜が道を見下ろしているのを発見した。
おや、ちゃんと名前のある桜だぞ。
しかも、かなり立派な名碑が立っている。
「小田八龍桜」

  立派な名碑でしょう。

むちゃくちゃ立派な石碑の名前のわりに、その名前の由来とか樹齢とか品種とか、説明された看板が全くない。
八龍って、何?
ただ樹勢はあり、小高い場所にあるので、よく目立ちよく映える。
足元に石塔などもあり、ちょっとないくらい写真映えする桜だ。
枝垂れ桜じゃないのであまり取り上げられなかったのかもしれないが、このあたりの名木にあげても遜色ない木だと思う。たぶんエドヒガンかなぁ。
こいつを拾えただけで、今回の桜めぐりは成功だ、と思えるくらいだ。
後々ネットで調べても小田八龍桜のいわれや樹齢はわからない。そのうち説明看板でも立つかなぁ。

小田八龍桜を左手に見て通り過ぎ、ややして案内看板通りに左折すると、これで大丈夫なのかというくらいの細い道になるが、すぐに前方にピンクと黄色の色彩が見えて来る。
背後の杉の山の緑、空の青、桜のピンクに菜の花の黄色。
間違いないなぁ、あのピンクの中の1本が祭田の桜だろう。つまり、見たことがあるのかないのかわからなかった桜だが、ここに来て初見だと分かった。
手前に10台くらいとめられる駐車スペースがあるのでそこに自動車をとめて、徒歩でピンクと黄色に近づく。
  
  手前に駐車スペース。

近づくにつれ、高い位置にあるピンク色が実は数本の桜であることが分かった。祭田の桜は、どれだろうと思うこともなくすぐに分かる。
1本だけ、ずば抜けて老木なのだ。
黄色い菜の花の斜面まで行くと説明看板が立っていて、そこから見上げると豊かに花をつけているのは駐車スペースがわだけだと分かる。
ごつごつした幹の半分はすでに枯死しているように見えた。

  道から桜はこんなふうに見える。

  桜に徒歩で近づける道がある。

祭田の桜は、個人のお宅の敷地内にあって、菜の花の斜面の上の小高い場所にそのおたくがある。
駐車スペースからずっと先まで行くとたぶん自動車でそこまで行くことができるルートがあるのだろうが、説明看板の先から徒歩ですぐに桜の元に上れる道がわざわざ作られていた。
登っていくと、そのお宅の方らしいおじいちゃんが桜を誇らしげに来る人来る人に紹介して、それぞれにどこから来たのか、などと尋ねていらした。
このお宅の庭で祭田の桜は大事に大事に扱われていたのだと分かる。
そうでなければ、もしかしたら半分どころか全て枯れたしまっていたかもしれない。
個人のご好意で一般の人にも見ることができるようにしていただいているのだから、行政も力を貸して、樹木医などに見てもらうようにはできないだろうか。
800年の重みを個人だけに託してはいけない。
と、思って駐車スペースにある大きな看板の文字を読んでみたら、福島県・二本松市・東和祭田の桜を守る会、市民との協議による地域づくり支援補助事業、と書かれていたので、なんらかの補助はあるらしい。
ずっとずっと守ってあげてほしい、人間と一緒に村の中で暮らす桜である。


祭田の桜からほど近い場所に中島の地蔵桜がある。
ざっくりとした地図が祭田の桜の看板にあったし、時々案内もあったので迷わずに行きつくことができた。
ただ、どうも駐車スペースがないらしい。
遠くにたぶんあれが中島の地蔵桜だな、というピンク色が見える場所に数台の自動車がとめられる場所があり、我々の軽自動車なら滑り込める空きがあった。そこが駐車スペースであるという明記はなかったのだが、道を目でたどってみても、ほかにはなさそうだったので、駐車して、歩き出した。遠いといっても徒歩2分ほどである。
 
  駐車した場所から歩いて桜まで。真ん中やや右に桜のピンクがあるのがわかるかな。これくらいの距離。

田んぼの向こう側に大きく枝を広げた枝垂れ桜が迎えてくれる。
けっこうたくさんの人がこの桜を見に来ているようだ。
坂の上にある桜は、坂の下にある田んぼに枝を触れさせんばかりに枝垂れていてさのあでやかな姿を見ながら、田んぼをぐるりと回って坂の上に出ることができる。
我々が行った時には風があって、田んぼが波打ってしまったのだが、ぐるりと回ることができるおかげでちょうど水面に桜がくっきりと映る角度を探すことができるだろう。
パンフレットによれば、ライトアップもされるそうで、そうなると水面の桜はいっそう優艶に浮かび上がるはずだ。
桜の横に出ると、レンギョウの黄色い植え込みがあり、濃いピンクの桜とレンギョウの黄色のマッチングも楽しめる。
坂の上まで出ると、桜と同じレベルになり、桜の足もとのお地蔵さんにご挨拶もできる。

  お地蔵さまにお参りする人も。

近年に整備されたそうで、それ以前はどういう風になっていたのかわからないが、実にうまい具合に整備したと思う。
桜のあり方はそれぞれあるが、この中島の地蔵桜は見てもらうための桜に仕立ててもらった、という感じがする。仕立ててもらったおかげで、その美しさがいっそう際立ったと思う。
それもまた、日本の1本桜のひとつのありかただ。
なんとか水面に写る逆さ桜を見たいものだとしばらくうろうろしたが、結局水面が静まる時はなかった。


さあ、あとは新潟に向かって帰ろう。
昨日のざっくりした計画では、帰りは本宮インターから乗ることにして、その周辺の桜を見ることになっている。
そのあたりには、国の天然記念物の馬場桜さまが待っているはずだ。
数年前に行った時、すっかり枝が落とされて、樹勢回復の養生中だったが、今はどんなになっているのだろう。
と、いうことでナビに馬場桜を入れて走り出す。
走り出して間もなく、長沢の桜、と書かれた看板を見つけてしまった。あらま、ノーチェックの桜だわ。
ノーチェックの桜といえども、先の小田八龍桜のようなすばらしい桜もあるので、迷わずに拾いに行く。
ちょっと細い道を看板どおりに進んで行くと、さらに細い道へ入れと案内があった。道から下っていく感じのまるで私道のような道の先はけっこう広い窪地になっていて、民家が突き当りに、左に目を移すとピンクの塊があった。
あれが長沢の桜だろう。

  完結した空間の窪地。

行っていいのやら悪いのやら、私有地なのやらどうなのやら、さっぱりわからないまま、未舗装の細い道を桜に向かって進む。
手前に若い桜の木が数本あるが、明らかに樹齢の異なる古木が簡単な杭で囲われて緑の斜面にしがみついていた。
看板がなければ、県道からは絶対に見えない、さらに引き込まれた細い道からも見えない。坂を下る方向に入らなければ、この古木に気がつく人は誰もいない。
それでもちゃんと二本松市指定天然記念物であり、教育委員会による説明文の看板も立てられていた。
桜自体にも年月を感じる威厳があるのだが、それよりも、桜を含んだこの窪地の風景が完結した見事さがあった。
看板によると、昔、熊野神社があった場所らしく、なにかしら大勢の人の祈りが積み重なった場所なのかもしれない。
今はその神社もなく、ただたんぽぽがたくさん咲いていて、すべての時間が桜咲く春のままストップしてしまったようにさえ見える。
桜はすごいなぁ。
神様の宿る社が消えてしまっても、なお咲き続けて、祈りの存在を伝えているんだなぁ。

いやはや、またもや思いがけない良い拾い物をした。
かなり気をよくして、馬場桜へと自動車を走らせた。



馬場桜
国指定天然記念物。
樹齢1000年のエドヒガンザクラ。
源頼家が土にさした鞭が根付いた、
と言われている。



根本はこんな感じ。
バッサリ幹が切られているが、
手厚く保護されている。



引いてみるとこんな。
腕1本で生き残っている。
がんばれ。




御殿桜
樹齢も品種も不明。
この桜の立つ御殿が明治末期のものなので、
おそらくその頃から咲いているのかも。




相応寺の桜
推定樹齢約350年のエドヒガン系の紅枝垂桜。
枝垂れ桜とはいえ、花の位置がかなり高い。
花は手の届く位置まで下がっていない。
いやでも幹の雄々しさが目に入る。



見上げると、空を覆う桜花。


ほぼ満開。

馬場桜は、2006年に樹勢回復の措置がされている姿を見たきりだった。(その時のレポはこちら)
今、その時の姿を見てみると、主幹らしい太い幹が残っていたのだが、現在はバッサリ切られて、わきから出ていた太い枝のみが残されている。
ただ、前に来た時はまだ咲いていなかったのでわからなかったが、残された枝にたくさんの花が開いていた。
姿としては無残な姿なのだが、花が咲いている分、なお生きようとする力強さを感じた。そして、主幹を取り除いても生かそうとする努力も感じられた。
実は、全国に30本もない国指定の天然記念物である馬場桜ではあるが、今現在の桜の名所をネットで調べてみても、名前さえ出てこない。名所名木扱いされていないのだ。というよりも、むしろ近づいてくれるな、そっとしておいてやってくれ、という気配すら感じる。
現地に行くと、道案内の看板は出ているが、例えば開花中とかいう案内はなく、もちろんお祭り騒ぎもない。
行きついたのが夕刻であるというのもあるが、せっかく頑張って咲いているのに、あまりにも静かすぎて、泣きそうになってしまった。
1000年生きた桜である。ここで死なせてはいけない。腕1本になっても、ほら、咲いているじゃないか。
確かに今の姿は見栄えのする姿ではないが、それでも見てもらうべき桜じゃないのかなぁ。
命の重みを伝える、国指定天然記念物である。

さて、馬場桜の周辺にもいろいろと桜の名木があるとパンフレットは伝えているのだが、ぼちぼち日没が近づいていた。
あとはもう一つ、相応寺の枝垂れ桜を見て帰ろう。
相応寺は、馬場桜からそれほど離れていない場所にある。とりたてて、ナビに入れる必要もなかろうと走り出した。
が、これが見つからなかったんですね〜。
同じ県道沿いで、ものすご〜く大まかなパンフレットの地図からすると、ほぼお隣くらいの位置にあるはずなのに、いつまでたってもそれらしいお寺は現れない。おかしい、と思っている間に大玉村を出てしまった。こりゃ、行き過ぎたぞ、と思っているうちに「蛇の鼻」という看板が見えてきた。
あら、花と歴史の郷「蛇の鼻」というなら、ここもパンフレットに出ていたぞ。なにかしらいい桜があるんじゃなかろうか。
池沿いの道を「蛇の鼻」に向かって入る。
それにしても「蛇の鼻」ってヘンな名前だ。いったい何の施設なんだ?
駐車場に入ってみると、親子連れが多いのに気がつく。どうもこの雰囲気、小さな遊園地らしいぞ。遊園地だと、入園料を払わないと入れないんじゃないのか?
ほんの桜のためだけに入園料を払うのは惜しい。
ふと見上げると駐車場の上のほうに立派な桜が見える。
よし、あれだけ撮影してここはいいことにしよう。パンフレットに載っている桜もどうやらあれらしいし。
と、いうことで、入園もせずに駐車場から桜を撮影して、「蛇の鼻」は終了することにした。

  
  駐車場から見上げて撮影したので、ほぼ同じ角度の写真しかない。

すみません、あとでちゃんと調べました。
「蛇の鼻」は、四季おりおりの花が楽しめる施設で、中には明治末期に建てられた豪農の別荘などもある。入園料は大人600円。1回600円支払うとその年のうちは何度でも入園できるパスポートがもらえるそうだ。(HPは、こちら。「蛇の鼻」の由来も書いてあります)
5分ほどの桜見学で一人600円はやはり痛いので、判断的には間違っていなかったかも。また別の機会のゆっくりできるときに訪れたい。

問題は相応寺だ。
「蛇の鼻」に来てしまったからには、確実に行き過ぎている。
今来た道を戻って桜を探してみる。
桜を探すのは、実はあまり苦労しないことが多い。なにせ、有名な桜ほど遠目でもよくわかる咲きっぷりのピンク色を誇るものだ。
いくら住宅が込み入っている場所でも、桜色を探せば見落とさないはずなのだが。
見落としていた。
大玉村から本宮市に向かって走った場合、道がカクンカクカと折れ曲がっている箇所がある。その折れ曲がった死角に当たる方向に相応寺があったのだ。
しかも、お寺さん、けっこうデカいし。回りをぐるりと塀に囲まれて、桜の存在もよくわからない。
お寺の門のあたりには駐車スペースはなく、駐車スペースを示す小さな案内どおり細い道を曲がってお墓のあるあたりに行く。桜のためではなくて、本当にお寺に用事のある人のための駐車スペースらしい場所にとめて、お寺の庫裏のほうから境内に入る形になる。
ちょうどその庫裏から人が犬の散歩に出てきたので、桜を見させてくださいとあいさつして桜に向かった。
これ、見落とすか〜。
ものすごく大きな枝垂れ桜だった。
場所的に家が込み入った場所のさらに大きなお寺の境内という条件からそう見えたのかもしれないが、とにかくどっしりと大きな桜だった。

  
  綺麗に掃き清められた境内にすっくと立つ桜。

枝垂れ桜といえば、どちらかというと女性的な印象の桜が多い。
しかし、この相応寺の枝垂れ桜は、確実に男だな〜。
この寺はオレが守るぜ、と言っているかのように太い幹ですっくと立ち、大きく枝を広げている。
武士が刀を下げて背筋を伸ばしているように見える桜だ。
多分、この桜は、葉っぱが緑になっても、きっとすっくとかっこよく境内に立っているのだと思う。
いや〜、道順からすると戻る形になったのだが、戻ってまで見てよかった。
お日様も西に傾き、もう日没も秒読みだ。
本日の桜めぐりはこれまでにしよう。
今日のしめくくりが相応寺の枝垂れ桜でよかったなぁ。
毎度おなじみの行き当たりばったりのどたばた桜めぐりだったが、今日はほんとうにいい桜ばかりを見ることができた。
どたばたでも、福島ではいい桜に出会えるものである。
まだまだ桜のシーズンは続く。来週も福島だな。

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